わたしは子どもの頃からプリンスメロンが大好きでした。
さっくりと心地よい固さの歯ざわりと
ほんのすこし青さのある甘い香りは
時折到来するマスクメロンのそれよりも好ましく、
冷蔵庫の中にプリンスメロンがあると、
それだけで一日うれしい気持ちになったりしました。
当時のプリンスメロンはほぼすべてが露地栽培で、
ちょうど今頃、梅雨前のこの季節だけに味わえる果物でした。
プリンスメロンは日本に古くからある
マクワウリ(真桑瓜)の1品種ニューメロンと
ヨーロッパ系品種であるカンタロープ種の交雑により
1960年代に生まれた新しい品種です(発表は1962年)。
その誕生はまさにメロンの革命とも言える一大事だったようで、
それまでにない甘さとやわらかさを持ちながらも
安価なメロンとして瞬く間に一世を風靡し、
一時は日本のメロン市場の半数以上を占めました。
わたしの子ども時代は、まさに
プリンスメロンが市場を座巻した時代と一致します。
そこには種苗会社の戦略も確かにあったのですが、
プリンスメロンの味わいが多くの人に好意的に受け入れられ、
日本の一般家庭の食卓に新しい風を呼んだのは
事実だったと思います。
しかし1970年代も後半に入ると、より大きく高級感のある
編目系種アムスメロンやアンデスメロンが台頭し、
さらに高級品種アールスメロンの低価格化なども始まって、
プリンスメロンは徐々に生産が減り、
マイナーな存在になっていきます。
わたしが大人になってからは店頭で見かけなかった年すらあり、
プリンスメロンは探して買うものになっていて、
それはとても寂しいことでした。
ところが今年はプリンスメロンを各所で見かけます。
いつもの青果店にも熊本産と茨城産が並んでいて、
迷わず両方を買いました。それが上にあげた画像のものです。
(奥が茨城産、手前の半身と切り分けたものが熊本産)
詳しい生産量のデータを確認したわけではないので
あくまでも偶然の可能性は否めませんが、
もしかしてプリンスメロンの生産は増えているのでしょうか。
メロン全体の作付面積や出荷量は現在やや減少しているようですが、
それでもわたしが子どもの頃に比べれば格段に増えています。
市場も多品種を必要とする時代で、
それにともなってのことかもしれませんが、
初夏のプリンスメロンがふたたび日常の味となってくれるのは
ものすごくうれしいことです。
メロン 甜瓜
てんか(ウリ科キュウリ属)
原産地はアジアからアフリカにかけた砂漠地帯で、紀元前2000年頃から栽培が始まっている。そこからアジア方面へ向かって発展したのがノーネットのマクワウリ系種であり、中近東を経てヨーロッパに向かったものはネット系の西洋種メロンとして発展した。
プリンスメロンはこの東西両種を親として誕生した種類だが、それは意図した人工交配ではなく、偶然の交雑によるもの。安定した糖度の高さ、露地栽培に適すること(雨よけが不要)、丈夫で安価な供給が可能なことなどから、種苗会社「サカタのタネ」が大々的に売り出し、短期間で一般に普及した。
また、初代プリンスメロン(品種名「プリンス」)は病気に対する抵抗力が低いという弱点があったが、1976年に発表された「プリンスPF」はより耐病性に富む新品種。今日栽培されるのはこのPF種が多い。
※「プリンスPF」のPFは、うどんこ病(=Powdery mildew)とつる割病(=Fusarium wilt)の頭文字から取られている。
現在日本国内で生産されるメロンには赤肉系/青肉系/白肉系、ネット系/ノーネット系、温室系/露地系を含めた多数の品種があるが、総合的にもっとも出荷量が多いのは茨城県で、北海道がそれに次ぐ。温室メロンの出荷量は静岡県が最多。
また、ネット系のメロンは温室栽培が必要で多くがビニール温室だが、一部の高級品種はより細やかな管理ができるガラス温室で栽培される。ノーネット系のプリンスメロンは現在も露地栽培される代表種だが、一部トンネル栽培も行われている。
※2010年6月初出、2019年6月一部加筆