啓蟄も過ぎ、本格的に春の気配です。
鎌倉中央公園に行ってきました。
この公園は鎌倉市のほぼ中央にあたる山崎地区、
古くから谷戸(やと・やつ)と呼ばれる地域にあります。

ご存知の方も多いことと思いますが、
「谷戸」とは鎌倉や下総あたりで使われる言葉で、
山あいの、雑木林に囲まれたすり鉢状の地形一帯を指します。
底地は湿地帯であることが多いよう。
底には水田が作られ、その周囲は畑地、
鉢の内壁にあたる斜面は多くが雑木林となっています。
谷戸の雑木林は地中に雨をためて水源となり、
その水の恵みによって水田や畑は潤います。
雑木林から出るたくさんの葉は
畑土を豊かにする堆肥の材料になりますし、
木々は炭焼きの材料になります。
斜面から水田へと注ぐ流れの中ではさまざな生物が生命を育み、
それらは稲や野菜や果樹の収穫にも大いに役立ちます。
谷戸の中で繰り返される生命のサイクルは、
ほぼ完璧といってよい形をしています。
「ビオトープ」という言葉などない昔から、
人々はこうした自然の地形を最大限に生かし、
豊かな暮らしをしてきました。

鎌倉市内も40年ほど前までは
こうした谷戸がたくさん残っていました。
かつては100か所以上を数えたという谷戸も、
市街化が進んだ近年、その多くが宅地に変わりました。
十数年前の夏、とある谷戸の農家を訪ねたことがあります。
暑い盛りに鎌倉の市街地から続くくねった道を登りきり、
竹まじりの雑木林の暗がりを抜けたところで、
突然目の前に明るい田園風景がひらけたときの快い驚き。
それは今も忘れられない風景のひとつになっています。
広葉樹が茂る軽やかな風情の山肌に囲まれて
手入れのよい田圃は端正な美しさを見せ、
流れに沿って夏草が生い茂る畦道には
ちいさな青いカエルが跳ねていました。
そこにはひとの暮らしとごく近い自然の美しさがありました。
地図を眺めてみたところ、わたしが訪ねたその谷戸は
今はもうなくなっているようです。
いつかまた訪ねたいと思いつつ期を逸したのは残念ですが、
鎌倉中央公園の風景は、あの夏の午後の喜びを
思い出させてくれるものでした。
公園がある山崎地区は、東谷・小段谷戸・池の谷戸・
倉久保の谷戸と呼ばれる地域にあたります。
公園は平成9年6月に部分開園し、
平成16年4月に全面開園しました。
園内は一部緑化植物園として整備されていますが、
大半は谷戸の地形がほぼそのまま残されています。
米作が行われる田圃もありますし、
その周囲は豆類などを作っている畑になっていて、
炭焼きも行われています。
(農作業を行っているのは地元のNPO団体です)
はなやかな花壇や芝生がひろがる、という場所ではありません。
けれど、とても美しい公園だと思います。
初夏には蛍も見られるそうです。

今はちょうど梅の季節で、足元には
ハコベやオオイヌノフグリがたくさん咲いていました。
花はまだでしたが、木苺やスミレもあちこちに。
機会があったらぜひ。おすすめです。
園路は起伏に富み、ぬかるむ道も多いので、
足元の装備は万全にしてお出かけください。
鎌倉中央公園
鎌倉市山崎1667
開園8時30分~17時(8月は18時まで)、年中無休
月・金~日は管理棟にて緑の相談コーナーを開設
・JR大船駅東口バスターミナル7番乗り場から
京急ポニー号「桔梗山」行・「山の上ロータリー」行で
「山の上ロータリー」下車、徒歩3分
・JR鎌倉駅、鎌倉市役所前から
京急バス鎌51「鎌倉中央公園」行で終点下車、徒歩すぐ
・湘南モノレール湘南町屋駅下車、徒歩10分