「牡丹」は春の季語でもあるように、本来は春に咲く花です。
けれどこの寒い1~2月にも、各地の牡丹園では
鮮やかに花ひらいた牡丹の展示会が開催されています。
本来春のものである花を寒い季節に愛でる、
これは日本独自の園芸文化。

ボタンには年に一度、
春~初夏の間に開花する一季咲き種と、
春と秋の年2回咲く四季咲き種があります。
このうち一季咲き種を温度調節によって
早く咲かせたものを「冬牡丹(ふゆぼたん)」と呼びます。
冬牡丹の見頃は早春、2月初~中旬頃。
一方「寒牡丹(かんぼたん)」とは、四季咲き種を開花調節して
寒い時期に咲かせたものです。
寒牡丹の調節方法、実はかなりサディスティックです。
まず前年の早春、枝についたつぼみをすべて摘み取ります。
夏に入ったら葉も摘み取り、株を疲弊させます。
次の蕾が枝につくのは本来なら初秋なのですが、
夏の葉摘みによって疲れた株は花芽分化が遅れるため、
蕾ができるのは晩秋にずれ込みます。
晩秋についた蕾を冬に開花させたものが寒牡丹。
遅れてついた蕾は寒さで傷みやすいので、
風や霜をよけるなど、より細やかな手入れを必要とします。
※注
現代はここまで手の混んだ
開花調節をするところは少なくなり、
(四季咲きになる品種が少ないこともありますが)
温度による開花調節も多くなっているそうです。
なので、寒牡丹と冬牡丹を区別していない園もあります。
冬に咲いた牡丹はかならず菰や敷き藁、和傘などで保護された
情緒あふれる姿で目を楽しませてくれます。
これは観賞のためではなく、 寒風や雪、霜を避けるためのもの。
本来はあたたかな季節に開花する植物ですから、
これらの保護がないと、花はあっという間に傷んでしまいます。

ところで寒牡丹の開花調節、上記では
蕾や葉を摘むのは株を疲弊させるためと書きましたが、
厳密に言うと、疲れさせるばかりではありません。
これらの作業はいわば養分の回路を変えるようなもので、
花芽、あるいは葉芽に回るべき養分をほかに分散させる、
時には葉からの蒸散を防いで水分を保持するなど、
植物体内の複雑な仕組みの上になりたつ技術です。
牡丹に限らず、朝顔や菊、椿、撫子、
万年青、蘭、その他も含め、 日本の園芸家たちは、
植物体の仕組みを経験によって知り、
それを積み重ねて、さまざまに発展させてきました。
顕微鏡もないような時代から培われてきた
これらの技術が今も廃れずに続いていることは、
ほんとうにすごいことだと思います。
日本の園芸文化とは、つまるところは
こうした高度な知性の賜と言って過言ではないでしょう。
牡丹/島錦/絞り
上の写真はかつて愛好家の間で大ブームを
巻き起こしたという品種「島錦(しまにしき)」。
花弁の紅と白のコントラストが美しい絞りの名品種ですが、
これは突然変異で生まれた種類で、
花色がとても不安定なのだとか。
美しい絞りで咲いたと思ったら、
翌年は下の写真のような紅一色だったり薄紅だったりもし、
専門家でも美しい絞り花弁を作り出すのは
一か八かの賭けのようなものだそうです。
牡丹/島錦/紅
さて、東京周辺で冬の牡丹を愛でるなら、
上野東照宮のぼたん園か鎌倉・鶴岡八幡宮神苑がおすすめ。
関西なら奈良県桜井市の長谷寺、当麻町の石光寺が有名です。
いずれも2月下旬頃までが見頃。
なお、春咲きのぼたん園は、このほかにも各地に多くの施設があります。
ボタン 牡丹・花王・深見草
Paeonia suffruticosa(ボタン科ボタン属)
中国原産の落葉小低木。平安時代に薬草として日本に渡来した。
根の芯の部分を乾燥させたものが
鎮痛解熱に効果があるとされる漢方薬の「牡丹皮」。
かつては中国の国花とされていた(現在中国国花とされているのはウメ)。
日本における切花や苗木の生産は島根県がもっとも多い。
ボタンとよく似たシャクヤク(芍薬)も同科同属の植物だが、
ボタンは木(木本植物)、シャクヤクは草(草本植物)として区別する。
葉の形が違うなど外見の相違もあるが、
ボタンとシャクヤクを交配したどちらとも言えない園芸種もあり、
花のみでは区別がつきにくい。